
長い時間をかけて、大切なものを見つけて、心の底から安堵したのは、もう遙か昔。
こいつさえあれば、僕は僕の人生を、きっと有意義に過ごせると思い込んだ。
必ず手に入れる。
いや、必ず手に入ると信じていた。
実際それは、あと一歩で手が届く場所まで、近づいていた。
だけど僕は、伸ばした手を、下ろした。
時間とお金と周囲の期待を無駄にするだけじゃなくて、人生の中でも貴重な季節を、自ら否定することだと理解していたけれど、僕は手を引っ込めた。
モノを作っていると「才能」という、抽象的な言葉に憧れたり、それを嫌悪したりする。
自分に才能があるのかどうか。
才能という概念も正体も分からずに、そんなことを考えて一喜一憂していた。
この年になって、やっと分かった。
才能というのは、自分を信じられる力であり、努力を継続できるメンタル以外の何者でもない。
才能が技術を高める。
技術を裏打ちするのはセンスと根気だ。
イコール、センスと根気が才能なのだ。
培った技術を世間に認めさせるのは、知力と手練手管。
根本にあり、最も大切なのは、そんな一切合切を含めて、何が何でも、自分はやり遂げられると信じる心だろう。
僕は自分を疑った。
ずっとどこか懐疑的で、その小さな不信はやがて大きくなって、僕は伸ばした手を下ろした。
ま、結局その程度の覚悟だったんだろう。
文字通り、夢を見ていただけなのだ。
僕が選んだレールは煌びやかな都会を目指していた筈なのに、気がつけばとんでもない山奥にいる。
赤茶けた線路を見ていると、そんなことをつい考える。

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